身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました


 桜並木に瑞々しい緑が多くなってきた頃、いつものようにヱモリで働く私の前に思わぬ人物が現れた。ロングカーデとワイドパンツを合わせたファッションの、還暦間近とは思えないスタイルと美貌の持ち主は、嘉月さんのお母様だ。


「都さん、こんにちは」
「お母様! ご無沙汰しております」


 ナチュラルなロングヘアを揺らし、綺麗な笑みを湛えて近づいてきた彼女に、カウンター越しに挨拶をした。

 顔にもすっきりと出した額にもシワがなく、ファッションも女優のように若々しくて尊敬する。そしてやっぱり嘉月さんより愛想がいいなと、ちょっぴり笑ってしまう。


「この辺りに用事があって、せっかくだから寄ってみたの。都さんのオススメをテイクアウトさせてもらおうかしら」
「はい、ありがとうございます! 私のお気に入りは……」


 メニューを見せ、丁寧にコーヒーの説明をした。それのうちお母様はヨーロピアンモカブレンドを選び、マスターが用意してくれる間に私は会計をする。

 ブランドものの品がある財布からお金を取り出しながら、お母様が言う。


「また都さんとも食事したいわ。急だけど、明日の夜はどう?」
「あ……すみません。せっかく誘っていただいたのに申し訳ないんですが、明日は先約があって」


 私は内心ドキリとしつつ丁重にお断りする。