今夜もお泊まりするわけではないし、なにも進展はなさそうだなと内心苦笑しつつホールへ出た。私に気づいた嘉月さんが、軽く手を上げる。
「都、お疲れ様」
呼び捨てで名前を呼び、前よりデフォルトの表情が柔らかくなった彼には会うたびにキュンとさせられる。私は嬉しさを隠せない笑みをこぼし、カウンター越しに話をする。
「嘉月さん、早かったですね」
「ああ、出先から直帰してきた。早く都に会いたくて」
クールな顔をしてさらっと甘いひと言を口にするのがたまらない。里実さんが萌えるのもよくわかる。
私は頬をぽっと火照らせ、「着替えてくるので、ちょっとだけ待っててください」と告げてスタッフルームへ向かった。
急いで帰り支度をして、ニヤける皆にささっと挨拶を済ませて嘉月さんと一緒にヱモリを出た。
近くのレストランで夕飯を食べた後、比較的静かな汐入公園へ向かった。遠くのスカイツリーと、ライトアップされている桜を眺めながら川沿いをゆっくりと歩く。自然に手を繋ぐようになっただけで嬉しい。