聞いていた皆が冷やかしてくるし、マスターもぱっと表情を明るくして「都ちゃんそうだったのかい!? お熱いねぇ~」なんて言ってくるから恥ずかしさしかない。里実さん、もはや〝青山さん〟という呼び方を訂正する気もないし。

 とりあえず皆にペコペコ頭を下げて受け流していると、里実さんが私に近づいてこそっと囁く。


「でも、ふたりのラブみ溢れる話は聞かせてね。推しの幸せは私の幸せよ。彼と都ちゃんがうまくいってくれたら嬉しい」
「里実さん……」


 私たちを応援してくれるその気持ちにほっこりしてお礼を言おうとした瞬間、彼女はにこりと口角を上げる。


「だから、早く初キッスエピソードちょうだい」
「お疲れ様でしたー!」


 両手を合わせておねだりしてくる彼女に、間髪を容れずに頭を下げてさっさと歩き出した。やっぱり里実さんは里実さんだ。そういうところも好きなのだけど。

 実は、私たちはいまだにキスもしていない清い関係のままである。デートのたびに期待してしまう自分が恥ずかしくなるくらい、嘉月さんは本当になにもしてこないのだ。

 でも、大人なのに純情なお付き合いは、もどかしくもあるが甘酸っぱさもあって嫌じゃない。