「母さんが都を疑っていることも、そのきっかけになった出来事も全部わかっている。それのせいで婚約を破棄させたんだろう? 俺に与えたくないものをすべて排除して、記憶も取り出せなくした」
彼の声に無念さが滲んでいて、私も胸が苦しくなった。
「でも、その気持ちはわかる。俺も以前は、嫌な記憶は閉じ込めてしまいたいと思っていたから」
伏し目がちに話す嘉月さんの言葉を聞いた瞬間、私はふと不思議な感覚を抱いた。ずっと頭の底で眠っていたものを、急に引き上げられたような感覚。
確か、私がお父さんに連れられてヱモリに遊びに行った時……。そこで会った男の子が、秘密箱を見て今の嘉月さんと似たようなことを言ったんじゃなかったかな。『嫌なものを閉じ込めておきたい』って。
さっき秘密箱について話す彼を見て懐かしく感じたのは、たぶんそのせいだ。かなりうろ覚えだけれど、なんとなく悲しそうな雰囲気を醸し出していたから、私は励まそうとしていた気がする。
胸が騒ぎ始めるのを感じつつ、目線を上げる嘉月さんの話に集中する。
「でも、ずっと前に都が教えてくれたんだ。大事なのは閉じ込めることじゃなく、蓋を開けた時にどう感じるかだって。中身がいいものであっても悪いものであっても、誰かがそばにいれば喜びも苦しみも共有できる」



