生きてきた二十七年の間に、二度も味わうことになるとは思わなかった。大切な人が自分の目の前で命の危険にさらされる、とてつもない恐怖を。

 ──道路へ飛び出そうとするわが子に追いつけずとにかく叫んだ瞬間、彼に駆け寄る男性の姿が視界に飛び込んできた。

 見開く私の目に映るのは、嘉月さんだ。彼の手が伸び、昴の服を掴む。

 宙に浮きそうな勢いで引っ張られる小さな身体を、嘉月さんも後ろに転びながら受け止めた。向かってきていた車も、横断歩道の直前で停まる。

 ふたりとも無事だ……よかった……!

 事なきを得て、心底安堵した私の目から涙が溢れる。

 怖かった。本当に怖かった。嘉月さんが助けてくれなかったらどうなっていたか。恐ろしくて想像もしたくない。

 心臓はバクバクしているし、手も足も震えている。力が入らないそれらをなんとか動かし、膝から崩れ落ちそうになりながらふたりに駆け寄る。


「昴……嘉月さん……!」
「よかった……焦った」


 尻もちをついた状態で片足を立て、昴を胸に抱きしめる嘉月さんは深く息を吐き出した。

 昴はなにが起こったのかわからない様子だったが、とにかく驚いたのだろう。嘉月さんにしがみついて泣き声を上げ始めた。