そうして俺の家庭には笑顔が減り、いつもどこか重苦しい空気が流れていた。伯父はいろいろな援助をして温かく接してはくれたが、どうしたって父の代わりにはなれない。

 家庭の問題、嫌な記憶に囚われてしまう自分の性質、それらが俺の心を暗くしていた。俺と朝陽は、まさに月と太陽のようだと感じていたのだ。


「都は朝陽といる方が楽しいんじゃないかって不安はあったよ。俺は自分を好きになれなかったから。……でも」


 彼女と出会わなければ、人生はこんなに素敵なものだと知らないままだったかもしれない。つらいことも、後悔もひっくるめて美しいのだと。


「俺という人間も捨てたもんじゃないと思わせてくれたのが都だった。あんなに心から欲しくなる人はいない。彼女を譲る気はないし、どれだけ惑わせても無意味だ」


 鈴加さんに視線を向けて言い切ると、彼女はバツが悪そうな顔をしてまつ毛を伏せる。朝陽はどこかすっきりとした表情で、わずかに口角を上げていた。

 今なにをすべきか、自然に弾き出される。鈴加さんに「今日はもう帰っていい。秘書課でやることがあるならそちらへ」と手短に告げ、急いでヱモリを出た。

 都たちはまだそんなに遠くには行っていないはず。今夜は俺が迎えに行くことになっているし、おそらく一旦家に向かったのではないかと見当をつけ、その方向へ駆け出した。