『一度離れたものを取り戻すのって難しいんだな。人も、自分の心も』


 ……私たちは大丈夫。離れてもまた愛し合えたもの。誤解があったり、心がちぐはぐになったりしても、誠実に向き合えばきっと修復できる。

 でも、もし本当に嘉月さん自身も私たちのツーショットを目撃していて、鈴加さんの言うことを信じてしまったら……。

 心に渦巻く不安をなんとか消したくて頭を振り、自分に大丈夫だと言い聞かせる。今夜、ちゃんと嘉月さんと話し合おう。

 ふたりでとぼとぼと歩いている最中、脇に抱えていた昴の上着を落としてしまった。荷物を持っていて手が塞がっているので、「ちょっと待ってね」と言って昴の手を離す。

 そうして上着を拾い上げ、バッグの中に押し込んでいたほんの十数秒の間に、昴の姿が忽然と見えなくなる。

 えっ、と慌てて辺りを見回した直後、横断歩道に向かって駆け出す小さな背中を捉える。信号は赤だ。

 一瞬で血の気が引き、今度はバッグも荷物もすべて手から落ちた。すぐさま彼のもとへ走り出しながら「昴、止まって!」と叫ぶ。

 同時に、横断歩道に迫る車のブレーキの音が響き渡った。