「待って……!」


 帰ろうとしているらしく一生懸命ドアを押しているので、私は戸惑いながらも皆に「すみません」と謝り、荷物を持って席を離れる。嘉月さんのことはとても気がかりだが、後ろ髪を引かれる思いで軽く頭を下げ、昴に駆け寄った。

 外へ出てもむうっと頬を膨らませている彼は、私が手を差し出すと当たり前のように繋ぐ。小さなこの子が私を守ろうとしてくれたのだと思うと、感極まって泣きそうになった。

 家に向かって歩きながら、私はなんとか笑顔を作って明るい調子で声をかける。


「昴、ママのためにありがとね。でも、いじめられてたわけじゃないんだよ」
「だってママ、ないちゃう」


 口を尖らせる彼から思いもよらないひと言が飛び出し、私は目を丸くした。昴がそんなところまで見ていたとは。


「かーくんもこわかったもん。いやだ」


 昴まで泣きそうになっていて、私も胸が苦しくなる。幼くても、私たちの雰囲気がいつもと違うことはわかっただろう。嫌な気持ちにさせて申し訳ない。

 その時、ふとマスターの言葉が蘇ってきた。