身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました


 午後四時を回ったヱモリの店内にはお客様がいなくなり、夕日が当たるメリーゴーラウンドのおもちゃが輝いている。美しくて、なんだか物寂しい。

 事務所へ入ると、デスクに座るマスターにスタッフの皆が説得している最中だった。昴は皆に快く迎えられて、たくさん置いてある面白い雑貨に興味津々で遊び始める。

 その様子を見つつ、私もヱモリ存続に向けて話に交ざる。


「マスター、もう一回考え直してみない?」
「そうだよ、まだ諦めるには早いよ」
「また活気が戻るように、私たちもできることはするから」


 里実さんたちの言葉に、マスターは「皆、ありがとさん」と嬉しそうに微笑んだ。しかしその表情はすぐに憂いを帯びていき、ゆっくり話し出す。


「ヱモリは、自分が好きなことをやっているだけだったのに、それに共感した人が少しずつ増えていって皆の憩いの場になった。そういう人たちがだんだん離れていくのを見るのも切ないんだが、一番つらいのは自分の情熱が薄れていくことなんだ」


 彼の苦しい思いが伝わってきて、皆が黙り込む。


「一度離れたものを取り戻すのって難しいんだな。人も、自分の心も」


 しんみりと紡がれた声が胸を締めつけて、私たちはなにも言えなくなってしまった。