身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました


 ところが、お母様の件とは別に、私の不安はひとつ増えることになった。

 ゴールデンウィークの翌週の金曜日、半日の勤務を終えた私は昴をお迎えに行き、また嘉月さんのマンションにお泊まりする準備をしていた。

 そこへ里美さんから電話がかかってきて、聞こえてきたのは切羽詰まったような声。


『マスターがヱモリを閉めようかって言い出したのよ』


 突然の内容だったが、最悪そうなるのではないかという予兆はあった。

 マスターが足を悪くして以来、徐々に彼から以前のような情熱が薄れていくのを感じていた。コーヒー豆を調達しに行くのはおろか、店に立つのもままならないのだから仕方ない。それに加えて、客足は戻るどころか遠退き続けている。

 元々のんびりした店だけれど、数年前はそれなりに活気があった。マスターの元気な声が響いて、お客様もコーヒーを待つ間楽しそうに雑貨を眺めていて。

 当たり前だったその風景がいつの間にか色褪せてしまっていたのに、私たちは見て見ぬ振りをしていたのかもしれない。

 マスターと直接話をしたくなって、私は電話をもらった後、昴を連れてヱモリにやってきた。嘉月さんが迎えに来るまで、まだ時間はたっぷりある。