身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました


 そんな嘉月さんが、今も元気でやっていることがわかってよかった。また恋しさが募ってしまう前に離れなければ。


「じゃあ行こうか、昴。……お元気で」


 小さな手を握り直し、笑顔で軽く頭を下げて踵を返す。しかし、「都さん」と再び呼び止められた。


「今、どこかで働いている?」


 力強い瞳にまっすぐ見つめて問われると、魔法にかけられたかのごとく口が緩くなる。教える必要はないし、接点を持ってはダメだと思うのに、正直に動いてしまう。


「ヱモリで。この子を産んでから、また戻りました」
「そうだったのか。なら、もっと早くに行っていればよかった」


 どこかほっとしたような、それでいてほんの少し悔やんでいるような彼の表情が、真剣さを帯びたものにすっと変わる。


「今度、君に会いに行く」


 思いもよらないひと言が投げかけられ、ドクンと心臓が波打った。

 コーヒーを買いに来るのではなくて、私に会いに……?

 その意図を図りかねて戸惑っているうちに、嘉月さんは上体を屈めて「じゃあね、昴くん」と軽く手を振る。一度私と目を合わせてから歩き出した彼は、すぐに人混みに紛れていった。