身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました


 呆然と立ち尽くしていると、昴が私に気づいて「ママ」と呼んだ。彼もこちらを振り向き、大きく目を見開く。

 ……変わっていないね、嘉月さん。少し髪が長くなったけれど、切れ長の瞳も、普段はあまり弧を描かない唇も、中身は気さくなところもあの頃のまま。

 私だけ過去にタイムリープしているみたいで、視線を絡ませる数秒がとても長く感じた。

 こちらに駆け寄ってきた昴に手を取られ、やっと我に返る。ただのカフェ店員だった私を、彼が覚えているわけがない。他人として接しなければ。


「すみません! 目を離してしまって……失礼しました」
「待て」


 昴と一緒に頭を下げてすぐにその場を去ろうとしたものの、呼び止められてぴたりと動きを止めた。数年ぶりに凛とした瞳に一直線に見つめられ、緊張が走る。


「君、数年前ヱモリで働いていたよな? 俺が入院していた時、見舞いに来てくれた」


 意外にもしっかり覚えていたので、さすがに知らんぷりできなくなった。ぎこちなく「はい」と頷き、正面から向き直ってきちんと挨拶をする。