小さな筒の中に広がる幻想的な世界。輝くものの正体は小さな彩色した紙や色ガラスで、回転させるとそれらが動き、同じ模様が再び現れることはない。

 そんな美しいおもちゃの万華鏡を、二歳十カ月になる(すばる)が覗いている。癖のないさらっとした髪は彼、奥二重の瞳は私譲りの、最愛の息子だ。

 この万華鏡は、今日結婚式でリングボーイを務めた昴へのプレゼント。初めての経験だったが、とても立派にこなしていて感無量だった。

 彼だけひと足先に寝かしつけるために寝室にやってきても、真剣な顔で筒をくるくると動かしている。そんなに気に入ったのかと微笑ましく思いつつ、「また明日いっぱい遊んでね」と声をかけた。

 昴が寝るまで私も横になってようと一緒にベッドに入ると、彼はあくびをしながらも私に言う。


「ママ、おはなしして。おひるにいってたの」
「パパも知らないパパのお話?」
「そう!」


 いい返事をするけれど、今日はだいぶ疲れたはずだからすぐに寝てしまいそうだ。私はクスッと笑いつつ、なにから話そうかと「じゃあね……」と頭の中のアルバムをめくる。

 ──〝パパも知らないパパの話〟というのは、私の記憶にだけ残っている、大好きな彼とふたりで過ごした日々のこと。それは今思い返しても、万華鏡みたいに色とりどりに輝いている。

 何度も甘く愛し合った夜も、別れを告げた涙の一日でさえも。