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「今日はありがとう、奈那子。來さんも、お料理まで準備してくれて助かっちゃった」
「ほんと、素敵な時間だったわー。また来るね」
涼ちゃんとヒロちゃんが帰り支度を始めた頃、玄関には柔らかい空気が流れていた。
だけど、ふいにヒロちゃんが來に近づいて、小声で何かを囁いたとき——空気が一変した。
「……來さん、ちょっとだけ、いい?」
ヒロちゃんの声は甘く、でもどこか鋭さを秘めていた。
わたしは会話の内容までは聞き取れなかったけれど、次の瞬間、來の目が大きく見開かれるのを見逃さなかった。
「……な、何を言ったの、ヒロちゃん……?」
問いかけても、來は曖昧に笑うばかりだった。
その笑みが、どこかぎこちないことが、逆にわたしの胸をざわつかせた。
家のドアが閉まり、訪問者が去ったあとも、玄関の空気だけがまだざわめいているように感じた。
「……來?」
わたしが名前を呼ぶと、彼はしばらく黙ったままわたしを見つめ、ぽつりと問いかけてきた。



