「ところで、奈那子。結婚式は挙げないの?」
突然、涼ちゃんが核心に迫るように問いかけてきた。
「うーん……來も忙しいし、わたしもあんまりそういうの得意じゃないから」
「そうなのー? でも、來さん、奈那子のウェディングドレス見たくないんですか?」
ヒロちゃんがにやにやしながら來に振ると、來は少し間を置いてから、まっすぐに答えた。
「そりゃ、見たいですよ。でも……奈那子が嫌がるから」
その一言が、胸にズシンと響いた。
來は、わたしのせいで式を挙げられなかった、そう言っているように聞こえてしまった。
「いや、わたし……そんなに嫌がっては……」
言い訳のように声が漏れたけれど、それをうまく飲み込んだのか、來は軽く笑って「冗談だよ」と肩をすくめた。
どこまでが本気で、どこまでが嘘なのか。
この人の中に、わたしに向けられた気持ちがほんの少しでも混じっていたら、どれだけ救われるだろう。
気がつけば、わたしは來のことばかり見ていた。
嘘の中にあるぬくもりが、本物だったらと願ってしまう。
そして、涼ちゃんとヒロちゃんは満足げに笑いながら、最後のデザートを手に取った。
「それじゃ、お邪魔しましたー。楽しかった!」
「ほんと、來さんも奈那子もありがとうね。また来るよー!」
玄関先で手を振る2人の背中を見送りながら、わたしは來の横顔をそっと見た。
それはあまりに静かで、あまりに優しい――でも、どこか寂しそうな表情だった。
まるで“この関係が終わる日”を、來だけがきちんと覚えているかのように。



