「美容師なんてお金にならないわよ。現実を見なさい。あんなのは才能がある人しか続かないの。あなたには無理よ。もっと堅実な仕事に就きなさい。」


まるで未来を否定されたようなその言葉に、田淵くんの夢はその場で打ち砕かれてしまった。

それでも彼は何度も食い下がったそうだ。

それでも母親は「いい大学に行って、大手に就職しなさい」と、同じ言葉を繰り返すばかりだったという。


それからだった。

彼が勉強をやめ、態度を荒らすようになったのは。

家に帰れば説教とルールばかり。

だからこそ、昔の“悪友”たちとつるむようになったのかもしれない。


「うわ……そこまでされたら、私でも家出たくなるかもね。」


朝のミーティングでこの話を共有されたとき、隣にいた先生がぽつりとつぶやいた。

それに、誰も否定の言葉を返すことはなかった。


「家庭の事情には踏み込みにくいですよね……」


別の先生もそうこぼした。

わたしも同じ思いだった。

教員として、子どもたちの心に寄り添いたい。

でも、家庭の壁は高く、厚い。


「でも、誰かが田淵くんの話を聞いてあげなきゃ。」


そう、思わず口に出していた。