「早苗さん、そろそろ本当に行かないと」
「わかってまーす!」
保健室には、けが人や熱を出した生徒が来ることもあるけれど、誰もいない時はこうして、心の休憩所として使われている。
それはそれで、わたしにとっても心地よい時間だ。
「あ、奈那子先生。あたし思うんだけどね、滝川先生がよく保健室に来るのって、絶対先生に会いたいからだと思うんだよね」
「え? そんなこと……」
「家でも一緒なのにラブラブでいいなあ〜って、思ってる人いっぱいいるよ?」
そんなふうに言われるたびに、胸がチクリと痛む。
生徒たちはわたしたちを、仲の良い理想の夫婦だと思っている。
でも――それはきっと、ただの誤解。
わたしたち夫婦は、決して恋愛の末に結ばれたわけではないのだから。



