翌日の放課後、田淵くんがようやく重い口を開いた。

彼の話によれば、これまで胸の奥に押し込めていた不満や葛藤が、ついにあふれ出したのだという。


直接彼の話を聞いたわけではない。

けれど、職員室での担任の先生たちの会話から、彼の置かれた状況が少しずつ浮かび上がってきた。


――田淵くんのお母さんは、かなり厳格な人だったらしい。


スマホの使用時間にまで細かく制限が設けられ、友人と遊ぶ際にも逐一ルールが課されていた。

特に、宿題を怠ったりテストの点数が下がったりすれば、その制限はさらに厳しくなっていった。

高校生の自由や信頼という言葉からは程遠い生活だったようだ。


だが、田淵くんが母親に反発するようになった本当のきっかけは、そうした日常的な“縛り”ではなかった。


「俺、本当は、美容師になりたかったんだ。」


担任の先生がそう話してくれたとき、思わず手が止まった。

それは、田淵くんのことを知っている誰にとっても、意外な告白だった。


中学時代から抱いていた夢。

彼はそれをある日、勇気を出して母親に伝えたという。

ところが返ってきた言葉は、あまりに一方的で、冷たかった。