「え?ああ……前に一度だけお会いしたことがあって……食事の席で少し話したくらいです」
「なるほど。なんか、さっきちょっと親しげだったから気になっちゃって」
「そんな、たいした関係じゃないですよ」
軽く手を振って否定したけれど、どこか氣まずい空気が残った。
「奈那子、……もう帰るぞ」
突然、來が少し強めの口調で言った。
わたしは驚いて振り返る。
いつもの彼とは少し違う、どこか感情がにじんだ言い方だった。
「え、う、うん……」
わたし、何か悪いこと……したかな?
來の態度に戸惑いながら、わたしは彼の後を追って歩き出すしかなかった。



