夫の一番にはなれない



***

「田淵くん!」


他の先生方より一足早く、谷口先生に連れられて現れた田淵くんの姿を見た瞬間、わたしは大きく息を吐いて胸を撫で下ろした。


無事だった。

けれど、田淵くんの表情はふてくされていて、わたしたちの誰とも目を合わせようとしない。

腕を組み、まるで不機嫌な子どものように視線をそらしていた。


「……ありがとうございました、谷口先生」


わたしが頭を下げると、谷口先生は苦笑いを浮かべて首をすくめた。


「いえいえ。たまたまですよ。うちの生徒を探してたら、偶然一緒にいるのを見つけただけですから」

「でも、すぐに連れてきてくださって……本当に助かりました」


谷口先生の落ち着いた物腰に、どこか安心してしまう。

スーツ姿は食事会のときとはまた違った印象で、教師らしい信頼感に満ちていた。


阿部先生がすぐさま田淵くんに声をかけ、椅子に座らせる。

田淵くんは小さく舌打ちをして、あからさまに不満そうな顔で視線を下げた。


「教員総出で探してたんだぞ。……何かあったのか?」


その問いに田淵くんは何も答えない。

代わりに、玄関のドアの方をにらみつけるように見つめていた。


そんな様子を見かねてか、谷口先生がわたしの方を振り返って声を潜める。