夫の一番にはなれない



「おーい、そろそろ授業始まるぞ」

職員室から教室へと向かう途中で、聞き慣れた声が保健室に届いた。


「あっ、滝川先生だ。はいはーい、行きまーす!」

「走るなよー」


數学を担当している滝川來。

保健室に立ち寄っては、生徒に声をかけてくる。

それもまた、いつもの風景だ。


「滝川先生って、見た目はちょっとコワモテなのに、実は優しいよね」

「そうね、意外とね」

「えー、今の言い方、ちょっと惚気てなかった? いいなあ、まだ新婚さんだもんね〜」


わたしと來が夫婦だということは、学校でも知られた話だ。

本来なら、同じ学校に夫婦を同時に勤務させるのは難しいけれど、ここの理事長と校長が夫婦ということもあり、柔軟な対応をしてもらっている。


來の赴任が決まったとき、理事長は言った。

「お互いやりにくくなければ、それでいいよ」と。


その言葉に後押しされて、私たちは今、同じ学校で働いている。