あれから、來の態度は驚くほど変わらなかった。


あの保健室での出来事には一切触れず、まるで何もなかったかのように、いつも通りの朝が来て、いつも通りの夜が過ぎていった。

変わらなさすぎて、あの一瞬の出来事は、わたしの見た夢だったのかもしれないと思えてくる。


「ねえ、來。あの、昨日……」

「ん? 何かあった?」

「……ううん、なんでもない」


やっぱり、わたしは臆病だ。

伝えたいことがあるのに、それを言葉にするのが怖い。

確認したい気持ちもあるのに、もし答えが自分の望まないものだったらと思うと、踏み出せない。


その日も結局、何も言えないまま、來とふたりで夕飯を食べていた。

和やかな、けれどどこか緊張感のある沈黙の中、突然、來のスマートフォンが鳴った。

画面に「教頭先生」の文字が浮かんだのを見た來は、即座に立ち上がり電話に出る。



「はい、滝川です。お疲れ様です、教頭――」


最初は落ち着いた口調だったのに、次第に表情が固くなる。

食事の手を止めて、わたしもその様子をじっと見つめた。



「どうしたの、來? 何かあったの?」

「……田淵くんが家に帰ってないらしい。保護者から連絡があって、連絡も取れないって」


來の声が低く、深刻だった。