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「奈那子先生、その話、滝川先生が聞いたらヤキモチ妬かれちゃうかもよ?」
千絵さんの茶化すような言葉に、「そんなわけないでしょ」と笑って返そうとした瞬間――
「あ、噂をすれば! 滝川先生だ!」
保健室の扉の向こう、職員室へ向かう來の姿が見えた。
ジャージ姿のまま、少し疲れているようにも見える。
「滝川せんせー!今ねー、奈那子先生の初カレとファーストキスの話聞いてたのー!」
「ちょっ、千絵さん、それは――!」
止める間もなく大声で話を投げかける彼女に、來が一瞬立ち止まり、こちらを見た。
そのまま素通りしていくかと思ったけれど、來はなぜかそのまま保健室へ入ってきた。
「……初カレ?」
低く、穏やかだけど、どこか探るような声音。
生徒の前だからだろうか。
普段より演技じみているようにも思える。
「そう!しかもすごく衝撃的なファーストキスだったんだって!」
千絵さんの暴露が止まらない。
「……へえ。衝撃的、ね」
來がこちらをじっと見つめてくる。
その視線に、わたしは目を逸らすしかなかった。



