夫の一番にはなれない



「このまま時間が止まればいいのに――」


心の中で、そんな願いが浮かぶほどだった。


でも――現実は、そんなに甘くない。


食事が終わり、2人で台所に立って食器を片づけていたとき。

來がふと、思い出したように言った。


「あのさ、奈那子。こないだ見てたよな、物件」

「……うん、まあ」


一気に心が冷えていくのがわかった。

鼓動がさっきまでとは違う理由で早くなる。


「それで……物件、見つかったか?」


それは、ただの質問だったのかもしれない。

でも、わたしには“もう出ていくんだよね?”という、突き放されたような言葉に聞こえた。


「……ううん、まだ」


やっとの思いで言葉を返すと、手が震えて皿を落としそうになった。


「ごめん、來。ちょっと……トイレ」


そう言って、わたしは逃げるように洗面所へ向かった。


鏡に映った自分の顔が、どうしようもなく哀しかった。


目の奥が熱い。

せっかく、來が心を開いてくれたと思ったのに――