夫の一番にはなれない



***

來から「手料理が食べたい」なんて言われるとは思ってもみなかった。

これまであれほど頑なに断っていた彼が、まるでこちらに歩み寄るような言葉を口にするなんて。

そのひと言が、こんなに胸を熱くさせるなんて、予想もしていなかった。


嬉しかった。素直に。

少しは、わたしに甘えてくれているのかな――そう思えたから。


もしかして、來の中でも何かが変わってきているんじゃないか。

あの、仮面夫婦というルールの下で抑えていた本心が、少しだけ溢れてきているんじゃないか。

そう思いたかった。思い込みかもしれないけど、それでも。


そして――これはチャンスだとも思った。

來が少しでも「夫婦としての生活」に可能性を感じてくれているのなら。


わたしがこのタイミングで「夫婦を続けませんか?」って提案したら、

もしかしたら、彼も――受け入れてくれるかもしれない。


そんな期待と不安がないまぜになって、

彼の帰宅を待つ時間は、これまでで一番長く感じられた。


夕飯の支度は思っていたより早く終わったのに、

それからが落ち着かなくて、テレビをつけても、音だけが空回りしていた。



――「ただいま」