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夜、資料の整理をしていた手がふと止まった。
保健室で大樹と幸のやりとりを見たからか、俺の中で止まっていた何かが静かに回り始めていた。
気がつくと、あの時の光景が頭をよぎっていた――
俺と奈那子の出会いは、今でも鮮明に思い出せる。
あの日。ファミレス。
別れ話を切り出された直後、彼女は涙をこらえていた。
泣いてしまえばどれだけ楽だったろうに、必死に笑顔を作ろうとしていた。
俺はその姿に、言いようのない衝撃を受けた。
この人は、こんなにも誰かを想っていたんだ――と。
俺も同じだった。
裏切られて、傷ついて、それでもどこかに置き場所のない感情を抱えていた。
でも、彼女の涙を見た瞬間、俺の中で何かが大きく変わった。
この人には、もうこれ以上、泣いてほしくない。
そう思って、無意識にポケットのハンカチを差し出していた。
「これ……使ってください」
顔を上げた奈那子と初めて目が合った瞬間、息をのんだ。
全身を電気が走ったようだった。
こんな出会いがあるなんて、思いもしなかった。



