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【來side】
田中大樹を見ていると、どうしても自分自身を重ねてしまう。
彼が彼女の手作りを頑なに断っていた理由――それが、俺には痛いほどわかる気がしていた。
彼女はきっと気づいていない。いや、気づこうとしていないのかもしれない。
「不器用な優しさ」ってやつは、時に誤解しか生まないから。
奈那子が幸の指先に目を留めたのが分かった。
いくつかの指に、不自然な包帯。予感は的中だった。
「あれ? 幸さん、その手のケガ……どうしたの?」
「えっと……この前、ケーキ作ってた時に……イチゴ切ってて、ザクっといっちゃって」
言葉を濁しながらも、幸は笑ってみせた。
俺の脳裏に、大樹の過去の言葉が蘇った。
“幸? あいつ不器用だし、お菓子作りとか無理無理”
あれは、他の部員と談笑していたときの軽口だったが、俺には少しだけ本音が見えた気がした。
あいつはきっと――彼女のことが、大切なんだ。
「だから言ったんだ。幸、不器用だからこうなるって。ケガするに決まってんじゃん」
大樹の言葉を聞いた瞬間、確信した。
この男もまた、優しさの出し方を知らない不器用な人間なんだ。



