夫の一番にはなれない



***

【來side】

田中大樹を見ていると、どうしても自分自身を重ねてしまう。


彼が彼女の手作りを頑なに断っていた理由――それが、俺には痛いほどわかる気がしていた。

彼女はきっと気づいていない。いや、気づこうとしていないのかもしれない。

「不器用な優しさ」ってやつは、時に誤解しか生まないから。


奈那子が幸の指先に目を留めたのが分かった。

いくつかの指に、不自然な包帯。予感は的中だった。


「あれ? 幸さん、その手のケガ……どうしたの?」

「えっと……この前、ケーキ作ってた時に……イチゴ切ってて、ザクっといっちゃって」


言葉を濁しながらも、幸は笑ってみせた。


俺の脳裏に、大樹の過去の言葉が蘇った。

“幸? あいつ不器用だし、お菓子作りとか無理無理”


あれは、他の部員と談笑していたときの軽口だったが、俺には少しだけ本音が見えた気がした。

あいつはきっと――彼女のことが、大切なんだ。


「だから言ったんだ。幸、不器用だからこうなるって。ケガするに決まってんじゃん」


大樹の言葉を聞いた瞬間、確信した。

この男もまた、優しさの出し方を知らない不器用な人間なんだ。