夫の一番にはなれない



「……ああいうの、いいな」

「え?」

「ちゃんと喧嘩して、ちゃんと仲直りしてさ。言葉にしてぶつかり合えるって、ある意味すごいと思う」


わたしは來の横顔を見つめた。

その表情はどこか遠くを見ているようで――


「來も、言葉にするの、苦手だもんね」

「……うん」


正直な一言に、思わず笑ってしまった。


もしかしたら、來も少しずつ、自分の殻を破ろうとしているのかもしれない。

この日、生徒に向き合う來の姿を見ながら、わたしもほんの少し勇気が湧いてきた。


“わたしも、言葉にしよう”

來に気持ちを伝えることを、また先送りにしようとしていた自分に、少しだけ喝を入れた気分だった。


「來、ありがとね。助かったよ」

「いや、たまたま通りかかっただけだから」


そう言いながら、來はドアの外に出て行った。


でも、ほんの少し――足取りが、柔らかく見えた。