でも、この日は少しだけ様子が違った。
「おーい、職員室まで声聞こえてるぞ」
見慣れた姿が、保健室の入り口に現れる。
來だった。
普段なら教頭先生や主任の先生が飛んでくるところなのに、今日は來が真っ先にやってきたのだ。
「やっほー、滝川センセイ♪」
幸は相変わらずのマイペースで手を振る。
「やっほーじゃない。ここは騒ぐ場所じゃないって、何度も言ってるだろ」
來は呆れたように頭を抱えるが、どこか目尻がゆるんでいる。
大樹の方はと言えば、來が顧問の先生であることもあって、すでに直立不動。
一方の幸は、來も巻き込む気満々で手を引っ張った。
「ねえ、滝川センセイも聞いてよ。私の気持ち、どう思う?」
「状況が分かんないから何とも言えないけど……とりあえず話してみ?」
幸は大きく息を吸ってから言った。
「この前、大樹の誕生日だったの。だから手作りケーキを作ってあげたのに、全然喜んでくれなかったの!」
「ね!ひどくない?めっちゃ頑張ったのに!」
「前に“ケーキはいらない”って言ったからだろ!」
「でも、それはそれでしょ!気持ちの問題じゃん!」
2人のやりとりを聞きながら、胸がズクンと痛んだ。



