あんなに真剣に「お弁当を作る」と申し出たのに。
わたしの好意は、また“押しつけ”になってしまったのだろうか。
その理由を考えても、答えにはたどり着けなかった。
來の心の中は、まだ霧の向こうにある。
午後、保健室の扉が突然バーンと開いた。
そして、いつもの声が同時に飛び込んでくる。
「奈那子ちゃーん、聞いてよ!」
「奈那子先生!俺の言い分から聞いて!」
入ってきたのは、2年の“お騒がせカップル”、大樹と幸。
付き合って1年超のビッグカップルで、噂も絶えなければ喧嘩も絶えない。
「はいはい、保健室で騒がないって言ったよね?」
「ごめんごめん!でもさ、大樹がさ!」
「俺の方が言いたいことあるんだからな!」
2人とも声は小さくなったものの、主張は止まらない。
それでも、保健室にこうして来てくれるのは、わたしにとっては少しうれしいことでもあった。
「で、今日はどうしたの? また喧嘩?」
「ケンカってほどじゃないんだけど……」
「いや、ケンカだろ!めっちゃ怒ってたじゃん!」
何度もこうして喧嘩をしに来て、最後には一緒に仲良く帰っていく。
その一連のやりとりは、わたしにとってすっかりおなじみの風景になっていた。



