「望、もうあなたに未練はないわ。別れましょう」
はっきりとした口調でそう言った。
「……どうぞ、彼女とお幸せに」
わたしの口から自然と出た言葉だった。
もう未練なんてなかった。
いや、未練を感じる余裕すらなかったのかもしれない。
「もう帰って。あなたの顔、見たくない」
望は何度か謝っていたけれど、それを聞く気力もなかった。
そして、彼がファミレスから出ていった後――わたしはようやく、泣いた。
目の奥が熱くなって、ぼたぼたと涙が落ちてきた。
そのときだった。
「これ、使ってください」
差し出されたのは、青いハンカチ。
顔を上げると、それを差し出していたのは、彼の彼女の彼氏――つまり、被害者仲間だった。
「すみません……ありがとうございます」
そう言ってハンカチを受け取ったわたしに、彼はぎこちなく微笑んで言った。
「あの、ここ座ってもいいですか?」
「……はい」
知らない人だったけれど、不思議と安心感があった。
「お互い、ひどい日ですね」
鼻声で笑うと、彼も苦笑いを浮かべた。



