あと3ヶ月で、わたしたちの“契約”は終わる。

本来なら、それで何の問題もないはずだった。


だけど――


「わたしは終わらせたくない」


ふとした瞬間に、心の奥からそんな言葉がこぼれてくるようになった。


來のことが、好きなのかもしれない。

でも、それが「恋愛感情」なのか、「情」なのか、自分でもよく分からなかった。


けれど、彼と過ごしたこの約一年で、私は確かに來という人を“知った”。


生徒に真正面から向き合う姿。

理不尽なことには決して折れない頑固さ。

でも、どこか不器用で、人との距離感に戸惑う誠実さ。

そして――ときどき見せる、無防備な笑顔。


それらすべてを思い出すたびに、「この人ともっと一緒にいたい」と思ってしまう。


「……これからも夫婦でいませんか?」


そんな言葉を、胸の奥で何度も反芻していた。


そして不思議なことに、わたしの気持ちが変わり始めたのと同じように、來にも“変化”が見えはじめた。



たとえば今朝――


「おはよう」「行ってきます」に加えて、

「デザートのプリン買っておいたから、帰ってきたら食べなよ」

「今日は練習試合のミーティングがあるから、少し帰りが遅くなるかも」


まるで“夫婦の会話”のように、さりげない日常の共有が増えた。