やがて、交流会はお開きとなり、男性陣が気前よく食事代を出してくれた。

連絡先を交換して、上機嫌な早川先生と目が合った。


――そのときだった。


「滝川先生、帰りは?」

「あ、大丈夫です。電車で」

「もしよかったら、お送りしましょうか? 車で来てるので」



その誘いに下心があるようには見えなかった。

けれど――わたしは言葉を飲み込んでしまった。


「いえ、ありがとうございます。でも……」

「奈那子」


その声が聞こえたとき、一瞬幻聴かと思った。

こんな場で、來の声がするなんて――ありえない。


けれど、振り返ると、そこには眼鏡をかけた來が立っていた。

普段はコンタクトなのに、今日は眼鏡。

部屋着のようなだらしない服装のままで。


その姿に、思わず胸がざわついた。


「來……どうして?」

「どうしてって、奈那子を迎えに来たんだよ」


あまりにも自然に、あまりにも当然のように。

來は礼儀正しく会釈をして、相手の先生にも軽く頭を下げた。


「旦那さん?」

「あ、はい……すみません、お先に失礼しますね」