その言葉に、わたしは少し笑ってしまった。
そうだった。わたしたちは、“外では”仲の良い夫婦だった。
「わかりました。一応、話しておきますね。たぶん大丈夫だとは思いますけど」
そのあとで、早川先生が少し声をひそめてこう付け加えた。
「実はね、向こうの1人、どうやら“養護教諭の先生に会いたい”って言ってたみたいなの」
「え、そうなんですか?」
「理由までは分からないけど、なにか相談したいことがあるのかも……それにね、もう1人が私のドストライクでして。奈那子先生、協力してくれる?」
「ふふ、いいですよ」
そんなやり取りがあって、土曜日の夜の予定が決まった。
その日の夜――
來が帰宅したのは21時を過ぎていた。やはり、家庭訪問はうまくいかなかったらしい。
以前、わたしも不登校の生徒の家庭訪問に同行したことがある。
でも、家の中には入れてもらえず、玄関先での短い会話だけで終わった。
「來、今度の土曜日なんだけど……夜、外に出かけてもいい?」
「夜?珍しいね。いいよ」
返事は予想通りだった。
なのに、なぜだろう。
“わたしのこと、何とも思っていない”と、改めて突きつけられたような気がして、胸が少しだけ苦しくなった。



