「次、俺の授業な。遅刻したら補習だぞ」
「体調が悪いので授業休みまーす!」
「その割に元気だな。ほら、早く行け」
「えー、滝川っち冷たーい。俺らが奈那子ちゃんといたいだけなのに~」
「はいはい。早くしなさい、2人とも」
彼らは口を尖らせながらも立ち上がり、去り際に「マジでペナルティーだけは勘弁して!」と叫びながら駆け足で廊下を去っていく。
來はその様子を見ながら、ふっと笑った。
笑っている、というよりは――楽しんでいるようにさえ見えた。
その横顔を見つめながら、思ってしまった。
こんな日常が、いつまでも続けばいいのに――と。
でも、それは叶わない夢だ。
わたしたちは、もうすぐ“終わり”を迎える契約をしている。
離婚したあとも、この学校で今まで通り働けるのか?
來と同じ職場で、今まで通りの顔を保てるのか?
保健室の椅子に腰掛けながら、ふとスマホに手を伸ばす。
検索履歴には、住宅情報と並んで“異動希望 教員”というワードが並んでいた。
わたしは今、確実に何かを“終わらせよう”としている。
けれどその裏で、心のどこかが叫んでいた。
――まだ、何も始まっていない。と。



