「もうすぐ休み時間終わるよ?どうしたの」
「次、数学なんだよー。出ても寝るだけだし」
「俺ら、來の授業苦手なんだよねー」
保健室は授業をサボる場所じゃない。
でも、こんな風に飾らずに接してくる彼らには、つい甘くなりそうになる。
それでも一応、教師としての線は引かなければならない。
「ダメ。ちゃんと授業には出なきゃ」
「えー、奈那子ちゃんのケチー」
「ケチでも何でもいいから。ほら、教室戻って」
「でもさ、ここって居心地いいんだよなー。落ち着くっていうか」
言われて悪い気はしなかった。
それでも、保健室を“サボり場”にするわけにはいかない。
そういえば、わたしがこの学校に来たばかりの頃、体調不良を装ってスマホをいじる生徒がいたっけ。
何度注意しても聞かず、最終的には突き飛ばされる形になったこともあった。
そのことを思えば、この子たちはずっと“まとも”な部類だ。
反抗的だけど、悪意がない。どこか、子犬みたいな素直さも感じる。
「おーい、長野、常盤。まだここにいたのか」
チャイムが鳴る少し前、來が保健室をのぞいた。
そして、彼らを見つけると、教科書を片手に廊下の奥を指差す。



