夫の一番にはなれない



返事になっていない返事をして、愛想笑いを浮かべる。

わたしはこの職員室で、何度この笑顔を貼りつけてきたのだろう。

“幸せそうですね”“羨ましい”――そんな言葉が、どうしてこんなにも胸を苦しくさせるんだろう。


來が“今日は特別”と言ってくれたあの日から、少しずつ空気が変わっているのは感じている。

でも、変わっているのは空気だけ。わたしたちの立ち位置は、何も変わっていない。


だから、外では仲良し夫婦を演じ続けなければならない。

でも、もうすぐ“終わり”が来ると分かっているのに、今まで通りでいられる自信が、少しずつ揺らいできていた。


わたしたちが離婚したとき、みんなはどう思うんだろう。

「うまくいっていたはずなのに」「仲良さそうだったのに」って、きっと驚かれる。

その驚きを見たくないからこそ、演じることに意味を見失ってきていた。


それに――離婚後のことも、まだ何一つ決まっていない。


「奈那子ちゃーん、やっほー!」

「いえーい、奈那子ちゃーん!」


職員室から保健室へ戻ると、聞き慣れた大声が廊下に響いていた。

長野くんと常盤くん。例のやんちゃコンビだ。

あれからというもの、すっかり保健室の常連になっている。もちろん体調不良なんかじゃない。