「來、今日は珍しくのんびりしてるけど、部活ないの?」
「今はテスト前で部活もオフだし、テスト作成も終わってる。しばらく余裕あるんだ」
朝の会話が、こんなに自然に続いたのはいつぶりだろう。
生徒でも業務でもなく、たわいない話がこんなにも心地よいなんて、忘れていた。
「今日、これから気分転換にどこか行くか?」
思いもよらない提案に、思わず箸を止めた。
「……一緒に出かけるってこと?」
「ああ、嫌ならいいけど」
「嫌じゃないけど、珍しいなって。來の口からそんな言葉が出るなんて」
「今日は特別だから」
“今日は特別”――
その言葉が、朝ごはんの話だけじゃなかったことに、今気づいた。
ほんの短い会話なのに、胸の奥が温かくなるのを感じた。
デートじゃない。分かってる。
でも、誰かとどこかへ行こうと誘われて、こんなに胸が高鳴るなんて、いつぶりだろう。
「でも、來疲れてるんじゃない?今日は家でのんびりしようよ」
わたしの方が彼を気遣いたくなっていた。
無理して外に出ようとしてくれたのかもしれないと思ったら、
彼の優しさを無駄にしたくなかった。



