夫の一番にはなれない



「何か困ったことがあるなら……相談くらいには、のれるから」


來の声は、いつになく静かだった。

優しさに満ちているのに、わたしには刃のように刺さった。


黙っていようと思った。

けれど、言葉がこぼれてしまった。


「映画館で……望に会ったの」

「望って、元カレの?」

「そう。偶然ね」


“彼女も一緒だった”という事実は、喉元で止めた。

來には知られたくなかった。でも同じくらい、誰かに聞いてほしかった。


「何か言われたのか?」

「ううん。ただ、目が合って……それだけ」

「そうか……」


來はそれ以上、何も聞かなかった。

でも、わたしにはわかった。

彼の胸にも、きっと同じ痛みが走ったはずだ。


「望、幸せそうだった。……もうすぐ、パパになるみたい」


その瞬間、來の指が一瞬だけ止まったのを、わたしは見逃さなかった。

彼の元カノと、望が、結婚して子どもを授かった。


この現実を、來も知った――

そして、それを告げたのはわたしだった。


最低だ。

來の気持ちを考える余裕がなかった。

わたしの中にあったのは、羨望でも嫉妬でもない。

名前のない、苦しい何か。


わたしはまだ、ちゃんと傷ついていたのだ。