「……望、もうすぐ父親になるんだ」
風の噂で、望が結婚したことは知っていた。
だから驚くべきことではないはずなのに、胸の奥がじわりと痛んだ。
“望と結婚したら、子どもは2人。できれば男女ひとりずつ”
そんな将来像を、一時は本気で思い描いていた。
それが、誰か他の人と実現されている現実。
わたしは何を得たのだろう。形式だけの結婚、ひとりきりの暮らし。
何も生まれない家に帰る途中、心は空っぽだった。
「……ただいま」
遠回りをしても、気持ちは落ち着かないまま。
ドアを開けると、リビングには來がいた。珍しくテレビをつけ、映画を見ていた。
「おかえり。今日はちょっと遅かったんだな」
「うん……」
わたしの様子を、來が見ている。
いつもは何も言わないのに、今日は何か違った。
「何かあった?」
一瞬、心が揺れた。この問いかけを、ずっと欲しかったのかもしれない。
「ううん。なにもないよ」
それでも、平気なふりをした。だって、話せばきっと彼も傷つく。
來も、あの二人と関係があるのだから。



