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2週間に一度、わたしは土曜日にだけ持っている小さな楽しみに出かける。

それは映画館へ行くこと。大学の頃からずっと続けている趣味だった。

月に2本。ひとりで、たまに早川先生と。

もう、誰かと手をつないでポップコーンを分け合うような映画の楽しみ方はしていない。


「じゃあ、行ってくるね」

「……ああ、行ってらっしゃい」


來は、わたしがどこへ行くのか、きっと知らない。

知ろうともしない。今まで一度も、尋ねられたことがない。

わたしたちは夫婦だけれど、生活のルートはきれいに分かれている。


今日も、映画館の近くで早めのランチをとり、そのあと話題のファンタジー映画を一本見た。

それだけのはずだったのに――


「……ななちゃん?」


背筋に冷たいものが走った。

名前を呼ばれた瞬間、時が巻き戻されたかのように、心臓が跳ねた。


「望……」


映画館のロビーで、ばったり出会ったのは、元カレの望だった。

隣には、優しく腕を絡めている女性。彼女のお腹はふっくらとしていた。


あのときの彼女かもしれない――


言葉は交わさなかった。数秒間目が合って、わたしが視線をそらしただけ。

逃げたのだと思う。惨めになる前に。自分を守るために。