わたしには、あの人が自分の意志で誰かのために動いている姿が想像できなかった。

それでも事実として、わたしを“守っていた”ということが――

胸の奥に、静かに波紋を広げていた。


「知ってたの? 早川先生」

「ええ、もちろん。ちょっと羨ましかったくらい。本人だけが全然気づいてないから、もどかしかったわ」


“愛されてるね”
“守られてるね”


その言葉が、どうしてこんなにも苦しく感じるのだろう。

わたしたちは、あくまで“契約上の夫婦”。

外で仲良し夫婦を演じるのも、結婚の条件に含まれていた。


それなのに、今。

“演技”と“本当”の境界線が、少しだけ揺らいだ気がした。