「……でもね、來」
「ん?」
「今の私がいるのは、來がいてくれたからだよ」
來は驚いたように目を見開き、そしてすぐにわたしの手を取って握りしめた。
「俺もだよ。お前がいなかったら、俺、今の自分にはなれてない」
その言葉が、まっすぐにわたしの心に届いた。
少しだけ、涙がこぼれそうになって、わたしはそれをごまかすように來の肩に頭をもたせかけた。
「だから、これからも全部、いっしょにやってこう」
來がそう言った瞬間、自然とわたしたちの手が重なった。
右手と左手がきゅっと交差し、その間に、お腹の小さな命も包まれていた。
静かな夜の中、テレビの音も、時計の針の音も、すべてが背景になっていく。
いま目の前にあるのは、何より確かで、温かい“これから”だった。
そして、わたしは思う。
——この日々が、ずっと続くわけじゃない。
でも、変わっていくことが怖くないのは、
その先にも、あなたがいるってわかっているから。
きっとわたしたちは、
これからも、“ふたりで”生きていける。
窓の外には、夜明け前の静寂がまだ残っていた。
でも、それもやがて、新しい朝に変わっていくのだろう。
その時もまた、きっとこの人と手をつないで、歩いていくんだと思えた。
わたしの隣には、來がいる。
そして、わたしたちの未来も、すぐそばにある。
≪完≫



