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夜の静けさが、部屋の隅々にまで染みわたるようだった。
カーテン越しに街灯の光が柔らかく差し込み、リビングのソファはちょうど心地よい暗さに包まれていた。
わたしは來と並んで座っていた。
薄手のブランケットを膝にかけ、少しずつ大きくなってきたお腹を両手でそっと撫でる。
赤ちゃんの動きが伝わるたび、來がそれに気づいて微笑むのが、なんだかくすぐったい。
「……動いた?」
來が、小声で訊ねる。
「うん。さっき、コツンって」
「どっちに似るかな、こいつ」
來がそう言って、わたしのお腹に手を添えた。
その手は、教師として厳しくもある來とは思えないほど、驚くほど優しい手だった。
「どっちにも似てくれたらいいな」
わたしがそう答えると、來はしばらく考えて、わざとらしく首をかしげた。
「……いや、奈那子にだけ似ればいいか」
「え、なにそれ」
「顔も性格も、全部お前に似た方が、この子は幸せだろ」
冗談めかした口ぶりの裏に、本気が隠れていた。
だから、わたしは笑いながらも、胸の奥があたたかくなるのを感じていた。



