夫の一番にはなれない



***

夜の静けさが、部屋の隅々にまで染みわたるようだった。

カーテン越しに街灯の光が柔らかく差し込み、リビングのソファはちょうど心地よい暗さに包まれていた。


わたしは來と並んで座っていた。

薄手のブランケットを膝にかけ、少しずつ大きくなってきたお腹を両手でそっと撫でる。

赤ちゃんの動きが伝わるたび、來がそれに気づいて微笑むのが、なんだかくすぐったい。


「……動いた?」


來が、小声で訊ねる。

「うん。さっき、コツンって」

「どっちに似るかな、こいつ」


來がそう言って、わたしのお腹に手を添えた。

その手は、教師として厳しくもある來とは思えないほど、驚くほど優しい手だった。


「どっちにも似てくれたらいいな」


わたしがそう答えると、來はしばらく考えて、わざとらしく首をかしげた。


「……いや、奈那子にだけ似ればいいか」

「え、なにそれ」

「顔も性格も、全部お前に似た方が、この子は幸せだろ」


冗談めかした口ぶりの裏に、本気が隠れていた。

だから、わたしは笑いながらも、胸の奥があたたかくなるのを感じていた。