やがて、生徒たちは「そろそろ行くね」と帰り支度を始めた。
保健室のドアの前で、ふと酒井さんが立ち止まり、振り返る。
「先生、ここってやっぱり落ち着くね」
その言葉に、私は小さく頷いた。
「いつでも戻ってきていい場所だから。安心して、来なさい」
「うん、ありがとう」
その一言に、過去の彼女、泣いてばかりだった頃の姿が重なった。
だけど今は、もう、あのときとは違う。
ここは“止まってもいい場所”であり、そして“また戻ってこられる場所”。
それは、きっと私にとっても、來にとっても、そして彼らにとっても。
生徒たちの笑い声が遠ざかり、保健室に静けさが戻る。
私は、膨らんできたお腹をそっとなでながら、窓の外を見た。
春の風が、やさしくカーテンを揺らしていた。



