「じゃあ、教室のことは俺たちが見とけばいいんだろ?なんかあったら報告」
「うん、それで十分。先生がいると本音を見せないことってあるから。お願いね」
酒井さんの件を探るうえで、まだ主犯の確証がない馬淵さんの名前は出さなかった。
先入観を与えてしまえば、真実にたどり着く前に防壁を作られてしまう。
「了解!報告は奈那子ちゃんに行くから!」
……え? 今、“奈那子ちゃん”って言った?
「長野、報告は俺に、だろ」
「えー!じゃあそのあとに奈那子ちゃんにも!」
「行かんでよろしい」
「滝川っち、独占欲つよーい!家でも奈那子ちゃん、学校でも奈那子ちゃん!」
「独占してねーよ」
來は彼らの肩をポンとたたき、そのまま軽く背中を押して保健室の外に出した。
彼の後ろ姿を見送りながら、ふと早苗さんが言った。
「奈那子先生、男子にめちゃくちゃ人気あるんだよ?滝川先生、いつも守ってるじゃん」
「守ってる……?」
「うん。先生のこと、男子が下ネタっぽく言ってたら速攻で注意してるし。怒らせたら怖いから、誰も言わなくなったんだよ」
そうだったの……
來のそんな行動、今まで一度も聞いたことがなかった。



