私自身、養護教諭という立場上、クラス編成に直接関わることはできないけれど、せめて願いだけは伝えようと思っていた。


「もし来年も、彼女が保健室を頼ってくれるなら……私がここにいられたら」


その一心で、進路指導の会議後に校長先生に希望を出した。


「来年度も、このまま保健室で子どもたちを見守らせてください」


そう頭を下げた私に、校長先生は少し驚いたような顔をしながらも、「あなたが望むなら」と頷いてくれた。



放課後。

分厚いマフラーを巻いて、冷たい風の吹く校門を出る。

隣には來がいて、無言のまま歩幅を合わせてくれている。


「……ねえ、來」

「ん?」

「酒井さん、来年のクラス、どうなるんだろうね」


私の問いに、來は少し空を仰ぐように視線を上げて、短く息を吐いた。


「担任会議でも話が出てるよ」

「やっぱり……そうなんだ」

「うん。どうすれば彼女が無理なく学校に来られるか、っていうのが一番の焦点だよ」

「それなら、よかった……」


しばらく風の音だけが耳に残る中、私は何度も口に出しかけた言葉を飲み込んでいた。


“どうか、来年もあの子の居場所が守られますように”

そんな願いを口にしたところで、どうなるわけでもないのはわかっているけれど。