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朝の光が、カーテンの隙間から柔らかく差し込んでいる。
遠くから聞こえてくる電車の走る音に、私はゆっくりと目を開けた。
隣には、うつ伏せで眠る來の背中。
まるで長い夢から覚めたばかりのような、そんな静けさが部屋に満ちている。
「……おはよう」
小さくそう呟いた声に反応するように、來がゆっくりと身じろぎをした。
「ん、おはよう。起きた?」
目をこすりながら顔を向けてくる彼の声に、私は小さく頷く。
「朝ごはん、どうする?」
「……先にチェックアウトして、駅でなんか食べよっか」
旅行の最後の朝。
たった一泊の旅だったけれど、私は昨日よりも確かに來のことが好きになっていた。
着替えを済ませ、スーツケースを引きながらチェックアウトをする。
フロントで「ありがとうございました」と笑顔で見送られた瞬間、私は来るときよりも軽くなった気がした。
駅までの道、ふたり並んで歩く。
來はいつの間にか、私の手を取ってくれていた。
自然に、何のためらいもなく。
手のひらから伝わってくる体温が、静かに心に染み込んでくる。



