「……急にどうしたの?」
驚きと戸惑いで問い返すと、來は少し照れたように笑った。
「なんかさ。今日、道歩いてるときに、手つないでる親子見たんだよ」
「それで……なんとなく」
「俺たちも、いつかああなるのかなって」
カップの中のコーヒーはまだ温かくて、でも指先は妙に冷たかった。
私は、自分の気持ちをどう言葉にしていいのかを探しながら、少し間をおいた。
「……うん。欲しいと思うこと、あるよ」
「あなたとなら」
「いつか、ちゃんと……そう思える日が来る気がするから」
そう答えると、來の表情がふわりと緩んだ。
「……そっか。ありがとう」
「うれしいよ、奈那子」
そして、何も言わずに、來は私の肩をそっと抱き寄せた。
窓の外のネオンが、カーテンの隙間から静かに差し込んでいる。
部屋の中は、ただ私たちの呼吸の音だけが静かに流れていた。



