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チェックインを済ませた頃には、もう外はすっかり暗くなっていた。

ホテルの部屋に入った瞬間、私たちは顔を見合わせて、同時にふっと息を抜いた。


「思ってたより、ちゃんとしてるね」


來がカーテンを開け、窓の外に広がる夜景を眺めながら言った。


「うん。静かでいい感じ」


そう返しながら、私はベッドサイドの照明を点けた。

柔らかな光が部屋全体を包み、街の喧騒とはまったく無縁の空間がそこにできあがる。


小さなテーブルにコーヒーを用意し、並んで座る。

來はスマホを伏せて、「今日はゆっくりするって決めたから」と笑った。

それだけの言葉が、やけにうれしくて、私は少しだけ身体を來に預ける。


何か特別なことをするでもなく、ただテレビをぼんやり眺めながら過ぎていく時間。

それが心地よくて、静かで、いつまでもこうしていたくなった。


ふと、來が画面に視線を向けたまま、ぽつりと声を落とした。


「子どもって、欲しいと思ったりする?」

その一言で、私はゆっくりと目を瞬いた。